2017年8月20日日曜日

食虫植物

食虫植物は、食虫という習性を持っている被子植物門に属する植物の総称。食肉植物、肉食植物と言われる場合もある。食虫植物は「虫を食べる植物」ではあるが、虫だけを食べてエネルギーを得ているのではなく、基本的には光合成能力があり、自ら栄養分を合成して生育する能力がある。
○特徴
葉や茎などが捕虫器官になっており、昆虫や動物プランクトンをおびき寄せて捕らえ、消化吸収する能力を持つ。種によっては誘引する機能や消化機能がないものもあり、人によっては食虫植物に分類するかどうかで議論が分かれる場合もある。虫を捕らえるしくみを持つ植物はかなりの数に上る。例えば葉や茎に粘毛や粘液腺を持つ植物(ムシトリナデシコ、モチツツジ)や、花に仕掛けがあって、入り込んだ昆虫を閉じこめるもの(クマガイソウなど)などである。中にはムシトリナデシコのように、食虫植物のような名前を付けられているものもある。しかし、基本的には、捕まえるだけではなく、消化液を分泌し、さらに吸収するしくみを備えていなければ食虫植物とは認められない。ただし、吸収については、通常の植物であっても葉の面から肥料を吸収できるし、逆に食虫植物であっても、捕らえた昆虫の成分を根から吸収するのではと言われるものもある。つまり、食虫植物とは、表面で昆虫を捕らえ、殺して分解し、そこから何らかの栄養分を取るものである。植物が昆虫を捕らえる目的は他にもあり、多くの粘液を出す植物は、昆虫からの食害を防ぐためであると考えられる。マツなどの樹液もそのような意味があると見られる。他方、花が虫を捕らえるのは、たいていの場合は花粉媒介をさせるためで、しばらくすると放してやるしくみになっている。現在のところ、食虫植物として認められているものは、主として葉や茎で微生物及び昆虫や小動物を捕らえる。よく言われるような、花で虫を捕らえる食虫植物は存在しない。とはいえ粘着式の植物にはがくや花弁の裏側に幾分かの粘毛が見られる場合もある。一般に食虫植物は日光や水は十分であるが、窒素やリン等が不足しているため他の植物があまり入り込まないような土地、いわゆる痩せた土地に生息するものが多く、不足する養分を捕虫によって補っていると考えられる。一般に根の発達は良くないものが多い。
○虫の取り方
捕虫方式は
落とし穴式:ウツボカズラ科、サラセニア科など
粘着式:モウセンゴケ科モウセンゴケ属、タヌキモ科ムシトリスミレ属など。一部は葉が動いて虫をはさむ。
はさみわな式:葉ではさんで捕らえる。モウセンゴケ科ハエトリグサ属、ムジナモ属
袋わな式:水中で袋の中に虫を吸い込む。タヌキモ科タヌキモ属
に分けられる。捕虫器官の特異な形状や食虫という習性が一般的な植物の印象からかけ離れており、気味悪さを覚える人もいるが、逆に興味をひかれる人もいる。ハエトリグサは二枚貝のような捕虫葉を1秒たらずで閉じるという素早い動きを見せるうえ、ホームセンターなど身近なところで見る機会があるため、興味を持つ人も多い。
○分布
寒冷地から熱帯雨林、高山から低湿地や池と、世界中に分布しているが、個々の種としてみた場合、ハエトリグサや日本のコウシンソウのように限られた地域にしか自生していないものも多い。自生地には他の希少な植物が生えていることも多く、自治体によって保護されている場所もある。例えば栃木県のコウシンソウ自生地は国の特別天然記念物[2]、千葉県山武市と東金市にまたがる「成東・東金食虫植物群落」は国の天然記念物、愛知県武豊町の壱町田湿地は愛知県の天然記念物に指定されている。希に外来種として繁殖する種もある。タヌキモ属でアメリカ合衆国原産のウトリクラリア・ラディアタ、ウトリクラリア・インフラタは、兵庫県や静岡県の池で繁殖して話題になったことがある。日本の場合、各地で自生地が消滅している。理由は以下のものがあげられる。
開発による自生地の破壊
業者や愛好家による度を過ぎた採取や、採取が禁止されているところでの盗掘
湿地の乾燥化、池の富栄養化、他の植物の進出など環境の変化
○利用
その形や性質の面白さから、園芸植物として観賞用に栽培され、食虫植物は一つのジャンルをなしている。ただし一般に広く認められるほど美しいものは少なく、むしろ珍奇なものが多いことから、多くは特定の趣味家の楽しみの範疇である。理科教材として栽培されることもある。水湿地の植物が多いため、水草として栽培される例もある。しかし、栽培が広く行われ、園芸的な品種改良が行われる例もある。特にその面で目立つのはウツボカズラであり、非常に多くの交配品種が作出されている。ほかにモウセンゴケ属でもアフリカナガバノモウセンゴケやヨツマタモウセンゴケにも園芸的な品種がある。またミミカキグサ類では捕虫の構造は目立たないが、花が面白い形と美しい色を持っていることから栽培されるものが複数ある。ただしそのために野生品が乱獲され、絶滅を危惧されるようになっている例もあり、保護の必要性が言われるものも多い。
○栽培
入手方法は愛好者同士の交換や売買、業者による通販があるが、ハエトリグサやモウセンゴケ、サラセニアなど一部の種類は夏に花屋やホームセンターなどで入手できる事もある。栽培方法は種によって自生地の環境が違うため一概には言えないが、用土は水苔を用いる事で育てられるものが多い。基本的には一般の植物と同じく光合成により栄養を得ているため、栽培下では人手をかけて虫を与える必要はなく、逆に虫が腐敗して植物に悪影響を与える場合があるので注意が必要である。貧栄養の土地で育つため、肥料も原則として必要はない。


0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。