2012年1月24日火曜日

ハナショウブ

○解説
ハナショウブはノハナショウブ(学名I. ensata var. spontanea)の園芸種である。6月ごろに花を咲かせる。花の色は、白、ピンク、紫、青、黄など多数あり、絞りや覆輪などとの組み合わせを含めると5,000種類あるといわれている。大別すると、江戸系、伊勢系、肥後系の3系統に分類でき、古典園芸植物でもあるが、昨今の改良で系統色が薄まっている。他にも原種の特徴を強く残す山形県長井市で伝えられてきた長井古種や、海外、特にアメリカでも育種が進んでいる外国系がある。近年の考察では、おそらく東北地方でノハナショウブの色変わり種が選抜され、戦国時代か江戸時代はじめまでに栽培品種化したものとされている。これが江戸に持ち込まれ、後の三系統につながった。長井古種は、江戸に持ち込まれる以前の原形を留めたものと考えられている。一般的にショウブというと、ハナショウブを指すことが多い。しかし、菖蒲湯に使われるショウブは、ショウブ科またはサトイモ科に分類される別種の植物である。
○伝統品種群の系統
江戸系:江戸ではハナショウブの栽培が盛んで、江戸中期頃に初のハナショウブ園が葛飾掘切に開かれ、浮世絵にも描かれた名所となった。ここで特筆されるのは、旗本松平定朝(菖翁)である。60年間にわたり300近い品種を作出し名著「花菖培養録」を残し、ハナショウブ栽培の歴史は菖翁以前と以後で区切られる。こうして江戸で完成された品種群が日本の栽培品種の基礎となった。
肥後系:肥後熊本藩主細川斉護が、藩士を菖翁のところに弟子入りさせ、門外不出を条件に譲り受けたもので、「肥後六花」の一つである。満月会によって現在まで栽培・改良が続けられている。菖翁との約束であった門外不出という会則を厳守してきたが、大正時代にこれを売りに出した会員がおり、瞬く間に中心的な存在となった。
伊勢系:伊勢松阪の紀州藩士吉井定五郎により独自に品種改良されたという品種群で、「伊勢三品」の一つである。昭和27年(1952年)に「イセショウブ」の名称で三重県指定天然記念物となり、全国に知られるようになった。
長井古種:山形県長井市で栽培されてきた品種群である。同市のあやめ公園は明治43年(1910年)に開園し、市民の憩いの場であった。昭和37年(1962年)、来訪した中央の園芸家によって三系統いずれにも属さない品種群が確認され、長井古種と命名されたことから知られるようになった。江戸後期からの品種改良の影響を受けていない、少なくとも江戸中期以前の原種に近いものと評価されている。長井古種に属する品種のうち13品種は長井市指定天然記念物である。







アヤメ

○解説
アヤメは山野の草地に生える(特に湿地を好むことはない)。葉は直立し高さ40~60cm程度。5月ごろに径8cmほどの紫色の花を1-3個付ける。外花被片(前面に垂れ下がった花びら)には網目模様があるのが特徴で、本種の和名のもとになる。花茎は分岐しない。北海道から九州まで分布する。古くは「あやめ」の名はサトイモ科のショウブを指した語で、現在のアヤメは「はなあやめ」と呼ばれた。
○毒性
毒成分 イリジェニン、イリジン、テクトリジン
毒部位 全草、根茎、樹液
毒症状 皮膚炎、嘔吐、下痢、胃腸炎
○アヤメ、カキツバタ、ハナショウブの見分け方
アヤメ、カキツバタ、ハナショウブの同定は慣れれば一目瞭然であるが、見分けのつかない向きも多い。堀切菖蒲園には、その見分け方として次の記述の掲示がある(2005年6月現在)。
・アヤメ
花の色:紫、まれに白
葉:主脈不明瞭
花の特徴:網目模様、外側の花びらに黄色い模様がある
適地:かわいた所に育つ
開花期:5月上旬~中旬
・カキツバタ
花の色:青紫のほか紫、白、紋など
葉:主脈細小
花の特徴:網目なし
適地:水中や湿った所に育つ
開花期:5月中旬~下旬
・ハナショウブ
花の色:紫、紫、絞、覆輪など
葉:主脈太い
花の特徴:網目なし、花の色はいろいろある
適地:湿ったところに育つ
開花期:6月上旬~下旬
・外花被片の模様での見分け方
アヤメ:外花被片に網目模様が有る
カキツバタ:外花被片に網目模様無し、外花被片に白い斑紋が有る
ハナショウブ:外花被片に網目模様無し、外花被片に黄色い斑紋が有る



カキツバタ

カキツバタ(燕子花、杜若、Iris laevigata)はアヤメ科アヤメ属の植物である。
○解説
カキツバタは湿地に群生し、5月から6月にかけて紫色の花を付ける。内花被片が細く直立し,外花被片(前面に垂れ下がった花びら)の中央部に白ないし淡黄色の斑紋があることなどを特徴とする。
江戸時代の前半にはすでに多くの品種が成立しており、古典園芸植物の一つでもあるが、江戸時代後半にはハナショウブが非常に発展して、カキツバタはあまり注目されなかった。現代では再び品種改良が進められている。漢字表記の一つ「杜若」は、本来はヤブミョウガという別種の漢名(「とじゃく」と読む)であったが、カキツバタと混同されたものである。